裏側矯正は虫歯になりやすい?すでに虫歯があるケースや虫歯になった場合の対処法

歯列の裏側にブラケットとワイヤーを設置する裏側矯正は、最も目立たない矯正装置といっても過言ではありませんが、虫歯になりやすいというイメージも広がっているようです。

そこで今回は、裏側矯正の虫歯リスクや矯正前に虫歯がある場合、裏側矯正中に虫歯になった場合の対処法などを詳しく解説します。

裏側矯正前に虫歯がある場合

まずは虫歯を治しましょう

裏側矯正に限らず、虫歯がある場合は矯正治療よりも虫歯治療を優先することになります。もちろん、軽度の虫歯が歯の表側に生じている程度であれば、裏側矯正の装置を装着する際の邪魔にはなりません。

歯の移動を妨げる要因にもならないことが多いのですが、虫歯は進行性の病気であることを忘れてはいけません。治療をせずに放置していれば、徐々に悪化して、かけがえのない歯質が失われていきます。虫歯が歯の神経に達すれば矯正どころではなくなりますので、すでに虫歯がある場合は先に虫歯治療を完結させるのが原則です。

虫歯のリスクを取り除く

すでに虫歯があるということは、その背景に何らかのリスクが存在していることを意味します。最もわかりやすいのは「不十分な口腔ケア」です。歯磨きの方法や回数、タイミングなどが不適切だと、歯が汚れている時間が長くなり細菌の活動も活発化します。

食生活も虫歯リスクと深く関係しています。虫歯菌が大好きな砂糖(スクロース)を豊富に含むお菓子やスイーツをたくさん食べていると虫歯リスクは自ずと上昇します。砂糖以外でも小麦やお米を構成する炭水化物全般は、虫歯菌のエネルギー源となることから、その摂取量はしっかりコントロール必要があります。

もう一つ、虫歯リスクと関連があるものとして「歯質」が挙げられます。私たちの歯は皆、一様に見えるかもしれませんが、エナメル質の厚みや石灰化度などが異なります。当然ですがエナメル質がやわらかい(=石灰化度が低い)ほど虫歯のリスクは高まりますので、フッ素で歯を強くするよう心がけましょう。

フッ素塗布で用いるフッ化物ジェルは、市販の歯磨き粉の4倍程度のフッ素が配合されているため、石灰化作用の促進や歯質を強化する作用も極めて高くなっています。

こうした虫歯リスクを矯正前に取り除いておくことで、矯正中の虫歯を予防しやすくなります。

裏側矯正は虫歯になりやすい?

歯の裏側は唾液で常に洗われている

裏側矯正は虫歯になりやすいという話を耳にすることがありますが、それは必ずしも正しいとはいえません。なぜなら、歯列の裏側に装置を付ける裏側矯正では、唾液による自浄作用が常に働くからです。

皆さんもご自身のお口の中のことをイメージしていただくとわかりやすいかと思いますが、歯列の表側というのは頻繁に乾燥しますよね。口呼吸をしている人やよく笑う人であれば、前歯の乾燥をより強く実感していることでしょう。

一方、歯の裏側の乾燥を感じることはまずありません。歯が常に湿っているということは、唾液による自浄作用・殺菌作用・抗菌作用・再石灰化作用が働いていることを意味しますので、虫歯リスクも低くなります。

歯の裏側はエナメル質が厚い

私たちの歯の一番外側はエナメル質という硬い組織に覆われています。エナメル質は、歯の表側よりも裏側の方が厚く、しっかりとしていることから虫歯菌への抵抗力も高くなっています。

しかも、歯の裏側は絶えず唾液によってエナメル質が修復されるため、歯の表側よりも虫歯リスクが低いといえます。フッ素入りの歯磨き粉を毎日使うことで、その抵抗力をさらに高めることができます。

裏側矯正中に虫歯になったら

基本は虫歯治療を優先

裏側矯正は表側矯正と比較すると、虫歯になりにくい面がいくつかありますが、矯正前よりも虫歯リスクが高くなることは確かです。それは表側矯正やマウスピース矯正についても言えることであり、治療中に虫歯になるリスクは必ずつきまといます。もし、裏側矯正中に虫歯になってしまったら、矯正を始める前と同様、虫歯治療を優先するのが原則です。

虫歯の状態によって対処が変わる

例えば、歯の表側に小さな虫歯ができた場合は、裏側矯正中に支障が出ることはありません。矯正を継続しながら、歯の表側の虫歯治療を進めることができます。虫歯になっている歯質を削り、コンポジットレジンを詰めて終わるような症状がこのケースに該当します。

次に、歯の裏側に虫歯ができた場合は、少なくともワイヤーを外す必要が出てきます。ワイヤーがあると、歯を削ることはもちろん、削ったあとの修復処置も難しくなるからです。虫歯ができた部分がブラケットと重なっていないのであれば、虫歯治療に苦労することもありません。

最後に、歯の裏側に装着したブラケットと虫歯が重なっているケースについてですが、これは矯正治療を一時中断せざるを得ないといえます。ワイヤーおよびブラケットを一時的に撤去し、虫歯治療に専念することになります。歯の神経にまで達している虫歯であれば、根管治療を行うことになるため、それなりの期間を要する点に注意が必要です。

虫歯にならないことが大切

矯正中に虫歯になると、せっかく取り付けた装置を一時的に撤去しなければならなくなったり、虫歯治療が長期化することで歯の後戻りが生じたりすることもありますので、可能な限り予防するように努めましょう。

とくに裏側矯正の装置は歯磨きにコツがいることから、歯科衛生士によるブラッシング指導をしっかりと受けた上で、毎日のケアに活かすことが大切です。歯科検診も定期的に受けるなど、矯正を始める前以上に口腔ケアを徹底していきましょう。

まとめ

今回は、裏側矯正の虫歯リスクについて解説しました。裏側矯正は虫歯になりやすいという認識は、あくまで裏側矯正のイメージからきているもので、実際は表側矯正よりも虫歯になりにくいといえます。

とはいえ、裏側矯正も複雑な装置を装着することに変わりはなく、矯正を始める前よりは虫歯リスクが高まります。裏側矯正中に虫歯になると、虫歯治療を優先せざるを得なくなり、歯並びの治療が中断されてしまいますので、その点は十分にご注意ください。

著者プロフィール
矯正歯科医師:亀山威一郎

星ヶ丘DC矯正歯科:医院長・愛知学院大学歯学部非常勤講師 ・日本矯正歯科学会 認定医 ・ヨーロッパ舌側矯正歯科学会 専門医 ・世界舌側矯正歯科学会 認定医 小学生のとき矯正治療をするも、保定装置を使わなかったため後戻りし中学生で再治療を経験。そんな子供時代を過ごしながら歯科医師を志す。過去を振り返ったときにあのときに矯正してよかったと思える治療を目ざしています。

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